校門へ入るとマリレイは職員室に用があると言って俺と別れ、俺は校舎に入ると上履きに履き替えてそのまま教室へ向かった。昔は生徒が教室に溢れるほどいたらしいが俺の代ではほとんどが空き教室で一学年4クラス、1クラスに男女合わせて20〜30人くらいだ、、、朝だから結構少人数でも賑やかなはずなのだが、、、度重なる不況と親関係で教室の中はわりと静かなものだった。。。
男子１「今日あいつ学校辞めるらしいぜ。」
男子２「まじで！」
男子１「あぁ。。。両親の収入じゃあ生活に苦しいから。。。あいつバイトに専念するんだってよ。。。」
男子２「。。。そうかぁ。。。俺のところもやばいぜ。。。」
。。。そんな声が聞こえたかと思えば。。。
女子１「ねぇねぇ。。。あの子の噂知ってる？」
女子２「。。。なになに？」
女子１「あの子の親、離婚したでしょ。」
女子２「うん。。。それで？あの子母親の元で暮らし始めたのよね。」
女子１「そう。。。それでね。その子の母親つい此間再婚したのよ。」
女子２「うんうん。。。」
女子１「その再婚相手がひどいヤツらしくっていつも母親の見てないところでその子に暴力振るうんだって。。。」
女子２「。。。かわいそうに。。。」
。。。人数が少ないので否が応でも俺の耳に入ってくる。しかし、そのどれもが将来に希望が持てないようなそんな内容なものばかりだった。俺はそんな希望の持てないことを聞くのがイヤだったので。。。そういう時は希望の持てる明るいことを考えようと常に思っていた。。。そして。。。
洋一「。。。俺もバイトしようかな（できるできないは別として）、、、あぁっとその前に親に手紙書かなくっちゃ。。。」
バイトすることが必ずしも希望の持てるものなのかどうかは分からない。でも、前向きに考えた場合、将来自分自身にプラスになるに違いないのだ。そう言う意味では”明るい”ことなのかもしれない。それから一応、俺の両親は外国で画家として食っている訳だが、、、必ずしも売れているとは言えなかった。それだけならまだいいが、、、いつも送られてくる手紙には涙でぬれた痕のようなものがありキャンバスを引き裂かれたとか脅されたとか色々と書かれてあった。。。心配の種が尽きないためだからだろうか俺は両親に手紙を書くことが日課になっていた。
洋一「バイトしなくてもいいって言ってるけど、、、今の世の中じゃあな。。。そうだバイトのことも手紙に書いておこうか。」
ホームルームが始まるまでの間、俺は両親の手紙をいたためておいた。
。。。そして先生が転校生を連れて入ってきた。。。転校生は一目見てマリレイと分かった。

茜（委員長）「起立ィーつ。礼！」
生徒一同「おはようございます。。。」
委員長の号令とともにホームルームが始まる、、、が、どこか元気がない。。。しかも一斉に立つのではなくバラバラっと。。。
先生「お〜い！ホームルームなのに元気がないぞ！みんなぁ〜！これじゃあお通夜の行列みたいじゃないかぁ〜。しっかりおはようございますって言おうなぁ」
聞いてるか聞いてないかはそれぞれ、、、、バラバラだ。
茜（委員長）「着席！」
案の定、着席するのもバラバラとだ。。。
先生「いつもだがまったくしょうもないな、、、今日は転校生を連れてきたから今から紹介するぞ。。。留学生のマリレイ君だ。」
マリレイ「イギリスから来ましたマリレイといいます。あまり日本のことはよく分からないので色々教えてくれると助かります。よろしくお願いします。」
洋一「うっそう。。。」
嘘も結構入っているけど、、、あまりにもまともな自己紹介に俺は驚いていた。
先生「自己紹介を終えたところで、、、席の方だが、、、委員長の隣が開いているな。マリレイ君。今日から君の席はあそこだ。」
マリレイ「はい。」
マリレイは返事をするとおずおずと委員長の隣の席に着いた。

（洋一から見た感じの絵。洋一から見るとマリレイの姿は普段着を着ているように見えている。）

茜（委員長）「マリレイさん。私がクラス委員長をしている下郡茜といいます。できればお友達になれたらうれしいかな。。。」
マリレイは委員長に向かってウィンクしながら。。。
マリレイ「こちらこそよろしくね。茜さん。」
俺はマリレイと委員長のやり取りを見て雰囲気はとてもよさそうに思えた。
洋一「マリレイは委員長の近くかよ。。。いいなぁ〜。しかもすぐ仲良しみたいになってるし。。。」
俺も委員長に気楽に話ができたらなぁ〜と思っていると。。。
マリレイ「（洋一。これから先生が委員長代行の話するから立候補してね。）」
洋一「えっ。。。！？」
俺はマリレイの声がすぐそばで聞こえてきたので振り返ったがいない。。。マリレイは委員長の隣の席にいたまま委員長とまだ話をしているように見える、、、（そっ。。。そうか！）俺はマリレイが例の鍵を使って俺の耳元でささやいたのだな、、、と気がついた。そして、、、
先生「きょうはな、、、クラス委員長している下郡茜君が親の都合でアメリカに渡らなくてはならない、、、次の委員長会議で欠席もありうるのでその間に委員長代行を決めたいと思う。いいかみんな。。。」
先生が委員長代行と言っているが、、、それは即、次期委員長確定な話である。そんな話ですぐ手を挙げる生徒はいないだろう。俺もさすがに手を挙げ辛かった。。。
マリレイ「（洋一。ここで立候補しなかったら委員長に近づくチャンスは二度とないよ！）」
催促するようにマリレイの声が耳元でささやく。委員長と恋人同士にならなければ二週間後には、、、俺は観念するしかなかった。。。
洋一「先生！俺、立候補します！」
先生「おっ、安藤珍しいな。自分からなんて。。。昨日の晩飯がよっぽど美味かったか？」
飯が美味いときは俺は積極的になる性質があるらしい。一年のときはアメリカから一時的に帰ってきた両親とステーキハウスでおいしいステーキを食べた翌日の学校で美化週間のときの班長をかって出たり、おばさんが珍しく鰻を食べさせてくれたときは学級会で積極的に意見を交わしたりしていた。（このことは自分自ら話していたので生徒ならず先生にも伝わっていた）まぁ〜きのうはマリレイのチーズフォンデュを食べたこともあるけど、、、でも、きょうのは勝手が違うんだけど。。。
先生「他にはいないようだな。。。クラス委員長代行は安藤でいいな。みんな。」
生徒一同「いいでぇ〜す。」
先生「よーし決まった！委員長。あとで安藤に色々と教えてやってくれ。」
茜（委員長）「はい」
先生「それじゃあみんなぁ〜。授業が始まるまでの間、静かにしてるんだぞ！」
、、、と言った後、先生は意気揚々と教室を出て行った。。。ホームルームで委員長の引継ぎがうまく言ったので気分良いだろうなぁ〜と思いつつ、俺は委員長に近づく足ががりとともに委員長代行になった後悔の気分の複雑な気持ちで教室を出て行く先生後ろを見送っていた。